マレーシア最南端の南ジョホール経済地域で展開されているイスカンダル都市開発。それはシンガポール政府が費用の3分の1を負担する超巨大プロジェクト。
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マレーシアのイスカンダル都市開発。
それは、マレーシアの最南端の州であるジョホールにあるイスカンダル開発地域で動いている、大規模都市開発計画の事です。
2006年8月に計画が始まり、2025年に完了予定の20年物の超大型プロジェクト。
イスカンダル開発計画には以下のように記載されています。
The ultimate target of Iskandar Malaysia is to be “A strong and Sustainable Metropolis of International Standing” by the year of 2025.
和訳:
イスカンダル・マレーシア計画の最終的な目標は、2025年までに「強くて継続維持できる、国際的な都市」になることである。
カテゴリ | 2015年 | 2025年 |
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人口 | 1.95 Mil | 3 Mil |
GDP | 61.5 Mil | 120.4 Mil |
GDP成長率 | 4-7% | 7-8% |
GDP per Capita | RM 32,791 | RM 42,631 |
雇用 | 916,700 | 1.31 Mil |
失業率 | 2.9% | 2.6% |
労働力率 | 67.1% | 70.0% |
Reference: 10 Year Progress Report – Iskandar Malaysia
当該記事は、筆者が現地で見聞きした情報と、私的な意見を元に記載しています。内容については一切責任を持てません。ゴシップ記事的な観点でお楽しみください。
事実と異なる点や、不適切な表現などあればご一報下さい。
イスカンダル都市開発の費用の3分の1はシンガポールが負担している
ジョホールはマレーシアの首都であるクアラルンプールに次ぐ第二の経済都市圏です。
そしてジョホール海峡を挟んで対岸にはシンガポールがあります。2つの都市は物理的に2つの橋で繋がっていて、人、物の往来が盛んです。
そう、ジョホールはシンガポールにとってお隣さんであり、非常に関わりの深い地域なんですね。
このイスカンダル計画においてもシンガポールはその費用(10兆円程度)の3分の1を負担しているので、メインステークホルダーの一つです。
なので、イスカンダル計画はマレーシアとシンガポールの共同開発プロジェクトということになります。
⬆ジョホールは州の名前です。イスカンダル地区はそのジョホール州の南端部分の事を指します。
イスカンダル計画概要:推進する9つの産業と5つの経済地区
イスカンダル地域は、そこで行われる経済活動が早くて透明性と利便性があるものとするために、整備されたインフラとワンストップの経済センターを提供することを謳っています。
9つの推進産業
そしてこの目標を達成するために、9つの産業を推進しています。
そしてその9つの産業は2つのカテゴリに分けられています。即ち①主要産業と②振興産業です。
- 電気・電子
- 石油化学・ガス・オイル
- 食品・農産品
- 輸送
- 観光
そしてイスカンダル地域は5つの地区に分けられ、それぞれが特徴を持ったエリアとして開発が進められています。 このように、各地域に特色を持たせて開発を進めていく計画なんですね。 シンガポールの隆盛な経済の勢いを取り込みながら、中国の一路一帯との融合を目論んでいる壮大なプロジェクトです。 香港の北側に位置する中国の深セン。 今では中国のシリコンバレーと呼ばれ、中国初の超巨大企業がひしめいています。 例えば携帯電話のHUAWAIだったり、WeChatのテンセント、ドローン世界最大手のDJIなどが深センに本社を置き、虎視眈々と世界制覇を狙っています。 そしてその大きな波に乗って深セン自体も急成長を遂げました。 わずか30年ほどで人口30万人から1400万人に増えるという驚異の成長。 2018年にはGDPが38兆円を越えると予測されており、香港を凌ぐほどの破竹の勢いです。 マレーシアのイスカンダル都市計画も中国の深センと同じような成長を狙っています。 香港と深センの関係と、シンガポールとジョホールの関係はシンクロしていると言う人も少なくありません。 さて、そんな大規模プロジェクトが着々と進められているジョホールですが、課題も出てきています。 例えば人口ですが、2018年には200万人到達の予定が、実際は190万人で1年ビハインド。 また、鉄道の開発が3年先延ばしになったりしています。 鉄道はシンガポールとリンクする予定の地下鉄が当初2021年開通予定だったところを2024年に先延ばし。 またマレーシアとリンクする予定の新幹線が当初2023年開通予定が2026年に先延ばし。 ちなみに新幹線は日本からも入札をしており、日本の技術は高く買われているものの、結局は中国が新幹線の入札を勝ち取る可能性が非常に高いようです。 なぜなら中国企業の資本や勢いもさることながら、マレーシア政府との強いパイプが築かれているから、という話をちらほら聞きます。 一番大きな課題は雇用の面にあります。 住宅や教育の面では開発が進み、インフラとしては非常に充実しているようですが、企業の進出が伸びていないために雇用の機会が少なくなっています。 コカ・コーラやP&G、そしてマイクロソフトなでもジョホールに進出する話もあるようですが、なかなか実現していないのが現状のようですね。 計画当初は居住区も雇用もガンガン伸びるとの憶測の元で、コンドミニアムの分譲ラッシュが2011年から2012年ころにあった様子。 ですが、結局雇用が生まれないためにジョホールに移住するという需要が促進されず、不動産の価値は下がっています。 コンドは既に出来上がっており、購入したオーナーに引き渡されているのですが、当初想定の半分くらいの収入しか得られないために早々に手放しているオーナーも少なくないようです。 2018年1月時点での家賃相場は比較的リーズナブルで、例えば『3LDK 各部屋にバストイレ付 プール・サウナ・テニスコート付き』のコンドで月11万円とか。 月40万円~のシンガポールのコンドの家賃と比べるとものすごくお手頃です。まあ、このスペックだと日本と比べても安いですよね。 借りる方としては非常に魅力的ですが、当初良い値段で購入したオーナーにとってはなかなか痛い現実でもあります。 イスカンダル都市計画にかかるコストの3分の1を出資しているシンガポールですが、シンガポール人はジョホールに対して非常に悪い印象を持っているんです。 例えば危険だとか、未開の地だとか、そういった類のイメージをお持ちの方が多いようです。 高級時計をしていると鎌で腕を切られてその時計を強奪される、みたいな都市伝説も聴いたことがあります。 不思議ですよね。 国が力を入れて開発している都市を国民が悪く思っているなんて。 以下は現地でチラホラ聞こえてくる噂話レベルなので信憑性は薄いです。あながち間違ってもないとは思いますが、「まあそんな観点もあるんだなー」程度で読んでください。 シンガポールはイスカンダル都市計画に積極的に参加しているのは上記の通りですが、もちろんシンガポール側の狙いもあります。 ご存知の通りシンガポールは国土が比較的小さいです。 淡路島とか東京23区と同じくらいのサイズと言われることが多いですね。 そしてその小さな国土にで560万人程(2016年の時点)が住んでいて、そのうち200万人が外国人と言われています。 シンガポールは外国資本を積極的に取り入れて経済成長を加速させてきたので外国人居住者が増える事も仕方ない面はあります。 ただ、シンガポール国民からはネガティブな意見が多いのも事実です。 外国人の居住者が増えることで、「雇用が外国人労働者に奪われる」「交通渋滞が悪化している」「不動産の価格が高騰している」など。 これらの国民の意見を受けてシンガポール政府は外国人の人口に占める割合を抑制するよう動いているようです。 昨今ではシンガポールで働く権利である就労ビザの取得が年々難しくなっているのは事実です。 外国人労働者が就労ビザを取得する際には、本人の学歴、収入、専門性を見られますが、これらの基準がどんどん上がっていっています。 つまり、高学歴、高収入、高付加価値の外国人人材以外は今後は受け入れないという計画のように受け取れます。 この流れはシンガポールに居住している外国人のみを対象としているというよりは、国民を含むシンガポールに住んでいる人全てを対象にしているのかもしれません。 そこで出てくるのがイスカンダル都市計画。 シンガポールの目と鼻の先にあるジョホールに経済地域を作って経済活動を活発化させると共に、そこに人口を移動することでシンガポール国内の問題を緩和していく。 つまり高付加価値な人材はシンガポールに残して、それ以外の人材はジョホールに移動させる。そんなことを視野に入れているのではないでしょうか。 経済発展と人口コントロールを視野に入れたイスカンダル地域の都市開発ですが、地域が活性しすぎて高付加価値人材がシンガポールから流出してしまうことは、シンガポール政府としては絶対に避けたいでしょう。 ジョホールはマレーシアです。マレーシアとシンガポールでは物価が大きく異なります。 マレーシアの方が俄然生活費が安いのはご想像の通りだと思います。 例えばコンドですが、シンガポールが40万円~に対して、マレーシアは10万円~。食費もマレーシアはシンガポールの2分の1程度と言われています。 それに加えてシンガポール・マレーシア間の公共交通網も整理される予定です。 具体的にはシンガポールとマレーシア間で電車を開通し、1時間2万人の輸送を実現するという計画もあります。 そうなると、コストの高いシンガポールに住むよりは、ちょっと離れていてもコストが低くて生活インフラが整っているジョホールに住んだ方が得だと考える人が増えるのは必然的な流れですね。 その流れに乗って高付加価値の人材がシンガポールから出ていってしまえば、シンガポールの経済に影響が出ます。 単純に税収が減りますし、優秀な人材を惹きつけるのも難しくなります。 シンガポールとしては、それは避けなければいけないシナリオです。 その抑止策としてシンガポールではジョホールに関するネガティブな情報を報道することが多いのかもしれません。 ジョホールはあまり良いところではないとの印象を与えて、シンガポールからの移住の魅力を抑制するという効果を期待しているのでは、という事です。 シンガポールにはフリーペーパーが多くあり、朝のラッシュアワー時に地下鉄の駅で配られていますが、その記事にはジョホールに関するものも載っています。殺人や強盗など、ネガティブな内容のニュースを含め。 一方、シンガポール国内のニュースではネガティブな内容は殆ど見られません。 シンガポールも学歴重視の熾烈な競争社会なので、国民のストレスも少なくありません。結果、自らの命を絶つ選択をする方もいるようです。 また大規模な交通事故も起こっています。(たまに高速道路で車がひっくり返ってる現場を見ます。) ですが、それらが公共に報道されることは滅多にありません。 これはフリーペーパに限らず、テレビのニュース番組やネット上のニュースにも当てはまるように思います。 このような状況から推測すると、報道内容が規制されているのではないかと勘繰ってしまいます。が、真相はもちろん分かりません。 マレーシアのジョホールで繰り広げられているイスカンダル都市計画は、難しい課題を内包しながらも2025年のプロジェクト官僚に向けて着々と進んでいます。 一番大きな課題は企業の誘致と雇用の創出です。 もし今後、大企業が続々と進出し、雇用が安定的に供給されるようになるのであれば、ジョホールへの移住も非常に魅力的なものになるに違いありません。 より低いコストでシンガポールと同じような生活ができるのであれば、ジョホールで生活するのも「アリ」ですもんね。いや、むしろ賢い選択なんじゃないかと思います。仕事があれば。 イスカンダル計画完成の2025年まであと8年ほど。 あなたも是非イスカンダル都市計画の状況を追いかけてみてください。
5つの経済地区
中国における深センを目指すマレーシア・イスカンダル地域
2018年前半でのイスカンダル地域の進捗状況は。。課題は雇用機会の不足。
住宅の供給過多と雇用の不足
イスカンダル都市開発で盛り上がるジョホール。生活インフラも整って安定しているものの、シンガポール人からの評判はゲキ悪。その理由は報道の規制⁉
シンガポールの狙いは高付加価値の人材のみを国内に残して、それ以外の人は国外に出す事⁉
イスカンダル地域の人気が高くなりすぎて、付加価値が高い人材まで移住してしまう事は避けたい⁉
ジョホールに対するシンガポール国民のネガティブな意見は情報の規制が理由なのかもしれない。(*推測です)
シンガポールではネガティブな情報は表に出てこない。
まとめ
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